無人販売
2021.06.25 無人販売
無人販売で広がる地域コミュニティ
野菜の無人販売を利用したことはありますか?
その場で育った採れたての野菜が新鮮なまま購入できて、時には流通にのらない珍しい種類に出会えることもある、好きな人にはたまらない場所です。きっと愛用されている方も多いでしょう。
そんな無人販売所は、農家の方がご自身で設営されている場合がほとんどで、畑のはしっこに端材を組んだ台の上に野菜を並べていたり、コインをいれるロッカーを利用したりと形は様々。TOKYO KITCHEN GARDEN MARKET では、そんな無人販売所を改めてデザインして、いろんな場所に設置したらどうだろう、と考えました。
さて、どんな景色が見えてくるのでしょう?
第一号が設置されたのは、東京都青梅市藤橋。この辺りは、近年新しい住宅が増えて、若い家族が多く暮らしています。かつては養蚕が盛んだった名残で、畑や農地も数多く残っている地域です。
小さな子どもを育てるお母さんたちにとって、無農薬有機栽培の野菜を気軽に購入できるのは嬉しい限り。近くの農地では意気旺盛な若い農家さんもおり、住宅地に近接していて、すぐに購入できるこの販売所は、農家さんにも、信頼できるものを買いたいと考える若い家族にとってもいいことづくめではないでしょうか。
早速、通りを歩いて行くと、パッと目に飛び込んでくる赤い色。背後に見える茶畑のグリーンとのコントラストが鮮やかです。無人販売所の建物はシンプルな四角い鉄のフレームから、敷地の端に立ててある柱まで、真っ赤なテント生地で屋根が掛けられています。正面の奥には透明なポケットのついた、同じく赤いテントが張られています。ポケットの中にはそれぞれ、様々な種類の野菜が顔を並べています。さながら本日のおすすめ、とでも呼びましょうか?
設計を担当したのは一級建築士の畠中啓祐さん。「ポケットをつけたのは、通りから何が販売されているのかが見えるので、通りがかった人の目にもとまりやすい。ポケット単位で販売すれば、1ポケットいくら、とか値段を決めて購入しやすい、などの利点があります。」なるほど、購入する人にも販売する人にもわかりやすい!
遠くから目を引く赤いテントについても「野菜の緑との補色関係ですね。周囲の畑との対比や、中の野菜が目立つし、光が当たった時にきれいに見える。それから、真上から光が刺した時に野菜が人工的に見えてC G みたいで面白い。」と意外な視覚的効果も教えてくれました。
普段は店舗や住宅の設計を手がける畠中さんは、無人販売所のプランを聞いた時、面白そうだな、という思いと同時に難しさも感じたそうです。
これまでは、農家さんがご自身で設置されていた様なものを再構築する、となったら、できるだけ無駄にコストをかけず、シンプルな構造でデザインする必要がありました。そうして形になったのが、この組み立て式のテント。簡単に設営できて、風が強い時にはたたむこともできます。
そして、なぜこれをあえて作るのか、という問いを追求していきました。
「買い物も、現代はスーパーマーケットなどで一度に済んでしまう。一極集中の良さももちろんある。けど、無人販売の可能性も感じています。屋根のある、滞留できる場ができれば、そこに
人が留まって近所付き合いが始まり、ローカルなコミュニティがうまれる。中学生が、そこでちょっとジュースとか飲んでてもいいしね。」
誰でも立ち寄れる、屋根付きの無人販売所でローカルなコミュニティがうまれる。それって、かつての井戸端会議から少し形を変えて、集まる人々を限定しない、緩やかで最新型のコミュニティではないでしょうか。
畠中さんの考えは、さらに発展していきます。
「たとえば…マンションの屋上で野菜を生産して建物前の路上で販売する。蜂蜜なんかもいいね!生産と販売が直結していて、流通にのらないから無駄なコストもなし。その売上を建物の大規模修繕費に充てたり、お金を生むマンションができる。」なんだか、夢が膨らみますね。
この無人販売所の規格は、全国展開して、その地域の鉄工所で製作できることも想定しています。畠中さんは、「野菜に限らないで、いろんな人がそれぞれ勝手にお店を始めるのもいいよね。」と笑顔を見せます。
個人がそれぞれ自分の好きなお店を始める。それも無人販売ならハードルが低くなります。それってとっても楽しそう!今後どんな発展を見せるのか楽しみで仕様がありません。「町の景色に刺激を与えたい。ちょっと目立つ色でね!」
あの赤い色には、そんな思いもありました。
青梅市の販売所では、農家さんがとれたての野菜を準備するそばから、近所の方が待ち遠しそうに声をかけて行きます。その様子は、無人販売所が愛されるスポットに育ってゆくいい予感に満
ちています。