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2021.06.01 生産者

昔ながらのおいしさをつなぐ、東京の茶畑

 

東京の郊外に広がる茶畑。目の前には朝日を浴びてキラキラと輝くお茶の新芽。みずみずしい一面の緑の奥には堂々とした富士山も顔をのぞかせます。

 

ここは東京都西多摩郡瑞穂町。かつては狭山の地名で、古くから茶の生産が行われていました。狭山茶は、お茶の産地としては北に位置するため、茶葉が厚く成長し、甘みが強く重厚な香味とコクのある味わいが特徴です。

 

 

こちらで昭和30年頃から茶園と製茶場を営む原惣園さん。戦後にお茶の木を植えたのが畑の始まりだそうです。店主の細渕浩昌さんは2代目。以前は別の仕事をしながら土・日曜日に手伝いをしていましたが、定年後に専業となってからは、おいしいお茶を追求し、積極的に品評会に出品するなど研究を重ねています。

 

原惣園のお茶は、深蒸しでまろやかに仕上げられた、旨みと渋味をしっかり感じさせる昔ながらの味わい。栽培も製茶もこちらで行い、直接販売もしています。

 

「お茶のおいしさ、っていうのは結局は好み、人それぞれだからね。自分が知っている昔ながらの‘おいしさ’を守りつづけたい」。時折りご自身を‘素人’と呼ぶ細渕さん。一歩引いた広い視点から、変にこだわらずに、ただ、いいものを作りたい、と言います。

 

手もみに挑戦したのも、その持ち前の探究心からでしょうか。細渕さんが始めた頃には当たり前となっていた、機械を使って茶葉を揉む工程。それ以前に行われていた手もみの方法は一体どうやっていたの? それでは勉強しよう、と始めました。

 

葉を振るったり、回転させながら揉んだり、いくつもの工程がある手もみは時間もかかり、体力的にもとても大変。それでも、仲間と夜な夜な研究した日々を楽しそうに語ります。

 

手もみで仕上げたお茶は葉が長くて美しい仕上がり。その成果が花開いて、平成14年には農林大臣賞も受賞しています。

 

 

現在、東京で手摘みができるところはほとんどありません。しかも、製品にする量のお茶の葉を集めるためには大変な時間と人手がかかるため、ここ原惣園でも、広大な畑の中の一部分になります。

 

それでも手摘み用の茶畑を残すのは、地域の高齢の方々の楽しみになれば、との思いからです。彼女たちは、学校の授業の時間に「茶摘みに行きなさい」と言われて参加していました。今でも季節の行事として心待ちにしておられる方々がいます。

 

「先代に、ありがたいな、という気持ちでね。残してくれたものを絶やさないように努力して、今にあったおいしいお茶を作りたい。地域の文化とか日本茶の味わいを大事に、長くやっていけるといいね。」と細渕さん。

 

 

お天気に恵まれた5月の或る1日。朝から地元の女性たちがいそいそとした様子で集まってきます。開始時間になるとスッと立ち上がり慣れた様子で畑に向かいます。

 

手摘み用のお茶の木は、機械で摘みやすいようカマボコ型に刈り込んだものとは違い、自然に上に伸びた状態です。人が立ったまま手が届きます。摘み子さんには80代を超える大ベテランもいらして、素早い動作でたちまちカゴをいっぱいにしていきます。もちろん初めての参加の方もいて、この時期を待ちわびていたそう。ベテランさんに「摘み残しが無いように下から摘んでいくのよ。」と、教わりながら和やかに進んでゆきます。

 

5月の風が渡る茶畑はとにかく爽やか。緑に囲まれて様々な年代の女性たちがいきいきと作業する、こんな素敵な風景がずうっと残るといいな。

 

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